020060 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

☆アイテールの絵本屋さん☆

☆アイテールの絵本屋さん☆

アルカディアの聖域~第二章前編その1~

アルカディアの聖域
第2話~Dawn at desert~


~砂漠都市アリアン 住宅街~

「参ったな・・・・・・」
暗い夜の町の中で声がする。
「こうも広いとどこから手を付けて良いやら・・・・・・」
アリアンの地面を鉄製のブーツが踏みしめていく。
乾いた靴音だけが静寂を貫き、マントのはためく音が風の方向へと響く。

「トグ様」
「何だ? イクィ」
トグと呼ばれた大柄の男が、顔を覆っていたマントを後ろに返す。
顔立ちはいかにもゴツく、アリアンが昼間ならトグの回りの人々は遠回しに道をあけていくだろう。
目の色は両方とも蒼色、髪型は長い髪をかき上げ後ろで束ねている。
目つきは鋭く、見る物を威嚇し、人々を親の敵のように見るだろう。
そんな大柄の男が今は息を切らし大股で地面を踏みしめている。
この地方ではよくある光景だ。

アリアンの地面は地盤がもろく、強く踏みしめるとすぐに靴が砂に埋まってしまう。
そのため他の町から来た冒険者達は、歩くのにも体力を消耗し、夜になると必ず酒場か自分が泊まるための宿屋にいる。
これはアリアンに住む人たちにも同様で、夜になると外を歩く人物は滅多にいないのだ。
日が落ちて半刻もたたぬうちにアリアンの町の外には子供一人見かけなくなるのである。
だから夜のアリアンを歩く二人の姿を見た人がいるなら、間違いなく不審に思うだろう。

イクィと呼ばれた人物はトグと同様に頭を覆っていたマントを後ろへ倒し、静かに言う。
「どうやら噛み様と接触した模様です」
凛と響いた声でとトグを見つめた。
「うーあ・・・・・・ 雷爺に会ったのか・・・・・・」
トグは苦虫をかみつぶしたような顔をして呻く。
「んで、成果は?」
イクィが歩きを緩めこう言った。
「そこにある者を拒むのは 天雷の精霊」
「作戦成功ってか? あの坊主もなかなかやるなぁ」
トグは何故か誇らしそうに天を仰ぎ見て言う。

「問題はもう一人の少女なのですが・・・・・・」
トグの口調とは裏腹にイクィの口調は重い。
地面を見て、やがて決心したようにトグの方を見た。
トグは完全に立ち止まり、イクィの次の言葉を待っている
「まだ称号と鍵を得ていません・・・・・・」
トグは少し考え込み、またアリアンの地面を踏みしめ始めた。
「まぁなんとかなっぺよ~w」
と、まるで他人事のように言いながらイクィを指先で歩くように促す。

「まぁ 俺たちが着く前に戻ってきているはずだ そこからが問題だがな」
先の口調とは違い、真剣な顔立ちで言った。
イクィは小走りでトグに追いつき、肩を並べる。

「彼女なら、大丈夫です」
前を見据え、迷い無き目でトグに向かって言う。
トグは一瞬狼狽した。
未だかつて確信のないことは言わない女だったし、出会ってからこんな事を言うのは一度もなかったからだ。

トグはイクィに問いかける。
「そう思う根拠は何だ?」
イクィはトグの方を向き、少し口元に微笑みを残しながらこう言う。
「私と同じですから」
その顔は、今まで見なかった優しさの顔だった。
トグはそれ以上は聞かずにまた歩み始める。
イクィもそれに習って歩く。

アリアンの星は何処までも高く
光り輝き、町を照らし
さっきまであった暗闇はとうに消え去っていた・・・・・・



~アイテール・アナザー・フィールド~


「ってなわけで、だ」
横に座っている母が言う。
おもむろに立ち上がり空を仰ぎ見る。
「これから召還術師検定試験の第一次聖域特務特級審査試験を開始します!」
母は天へ轟くような大声で叫んでいる。
右手を腰に当てて、左手は拳を作り右胸に当てられている。
訳のわからない試験の名前を聞いて私は思わず頭を抱える。
っていうか無駄に長い名前だ・・・・・・・・・・・・
とりあえず五月蠅いので私は両手で耳をふさぎつつ母に聞く。

「何故に?」
「ん? おもろいからだけど?」
直球である。
「いきなりだね・・・・・・ っていうか前回とキャラ違うじゃん・・・・・・」
うさんくさそうに母の方を見ながら言う
「こ~まか~いこっとわ!き~にしな~い♪」
私の返答に母は陽気に答える。小躍りしてるのは見て見ぬふりをした。

私の母は、リンスレット=エリア=カスケード。
女手一つで私を育ててくれた唯一の親族である。
性格は陽気、まぁ私の母ですからねw
この世界の管理者を任せられているらしい。
この世界とは、私達が今いる世界。
母によるとこの世界は私達が暮らしていた世界とは異なり、外界からの影響をいっさい受付ないのだそうだ。
ただ、希に何らかの影響でこの世界へ来る者、正確には送り込まれてくる者がいるらしい。
どうしてか聞くとそこら辺は後で話すとはぐらかされたが・・・・・・

そしてもう一人の家族、私は面識がないが父がいると言うことが明らかになった。
母親だけが私の側にいたので、幼い私は母が全く説明しないからてっきり死んだものかと思いこんでいたのだ。

父の名前はクリス=カスケード
本職は考古学者で、私達が住む世界では結構有名な人らしかった。
母とは旅先のロマ町ースビルーというところで知り合い、母が父の研究を手助けしているうちに、やがて恋に落ちたそうだ。
父は私が生まれる前に別の大陸へでていて、母が今でも手紙のやり取りをしていると話してくれた。
「生きてりゃ会えるよ いや、多分もうすぐ会えるかもねw」
と母は笑って言ってくれた。

この世界に最初に入った時は、言いしれぬ不安と恐怖が私を支配していたが、今ではここに来ることが私の使命だと実感できた。
そのことを母に言うと
「なにいってんの~ 当たり前でしょ?」
と言い、訳がわからず聞き返すと
「だって私が呼んだんだもんw 忘れている方は『アルカディアの聖域第1話Lost memories後編を読んでくださいね~♪」
と誰に言ってるのか解らない台詞をさらっと吐いていた。

私はとりあえず母が急に提案した召還術師検定試験第一次(以下略)の準備にかかる。
試験の内容は大まかに二つ。

一つはどれだけ召還獣を出していられるか。
私の場合、契約している召還獣は二匹。
水の精霊であるスウェルファーと風の精霊であるウィンディだ。
一般の召還術師達は召還獣を一年出し続けていても身体が平気なら始めて一人前とされる。
しかしそれはあくまで一般の召還術師の話。
私の場合は契約召還獣が二匹というまれに見るケースなので、長く見積もって2年。
それ以上出し続けていられるのならば神クラスらしい。
どうやって試験をするのか聞いたら後で説明すると言われた。

そしてもう一つの課題は、召還獣を駆使した戦闘スタイルの完成。
召還獣と召還術師は一心同体でなければならない。
つまりどれだけ召還獣と心を交わすことが出来るかが問題なのだ。
もちろん召還獣を使わずにその恩恵だけ受けて戦うスタイルも珍しくはない。
良く言えば自由に決められる、悪く言えば・・・・・・ 悪く言う必要はないか。
そして召還術師達のバトルスタイルは、大きく分けて三つ
一つは召還獣のみに攻撃を任せ後方で召還獣に指示を出す『純召還術』
もう一つは自らが前線に出て召還獣がサポートしながら戦う『精霊術』
最後の一つは失われた術であり、高等召還術師も使うことをためらうスタイルである。
その名は
「心融召還?」
「そ、今では使う人はいなくなった失われたバトルスタイル」
リンスは頷きながらアイの前に歩いていく。
「まぁ、これを使うのには多少の危険が伴うけどね」
意地悪そうに、まるでガキ大将が新しい遊びの道具を見つけたときのように笑った。
私は母の不敵な笑みを見ないように考え込む。
私は笑顔で
「やっぱいいやw」
そう言った。
すると母はふるふると肩を震えさせ叫んだ。

「ナゼジャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ(#゚Д゚)ノ!!!!!!」
私の返答が不満だったのか母は地面をゴロゴロと転げ回る。
大人気ないなぁ・・・・・・・・・・・・
NO!NOOOOOOO!!!とか言ってるが、私は危険なのは極力避けたいのでウィンディとスウェルファーの召還にかかる。
すると母は起きあがり私に向き直りこう言った。
何を言うかと思えば、
「あんたこの小説の主人公なら切り札くらい持ってて当然でしょうが!!!」
理不尽きわまりない一言が。
「おかーさん」
「なに?」
「少しダマレ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
むう
その場に泣き崩れてるよこの人・・・・・・・・・・・・

「お父さん、アイは何故か知らないけど私の言うことを聞いてくれないわ・・・・・・ 育てたかが悪かったのかしら・・・・・・ やっぱり父親がイナイとダメなの?・゚・(ノД`;)・゚・」

演技じゃねぇし・・・・・・ 何故泣くのか・・・・・・
・・・・・・もう無視しよう
私は二匹の召還獣を出し、召還獣は私とおかーさんを交互に見ている。
私は この人は危ない人だから近づいちゃダメよ? と目で警告しておいた。

ー15分後

「ふう」
やっと落ち着いたのか、母は自分の召還獣を出し始めた。
その瞬間、身体にまとわりつくような熱気が辺りに充満する。
私にも解るくらいに、いや、魔術を志した者ならたとえ初級術師でも解るくらいの魔法力場がそこに生まれていた。
母親の体の中から放出されるエネルギーが全ての物を滅ぼさんばかりに膨れあがっていく。
そして
母は叫んだ。

「あえかなる時の狭間に生まれし焔よ! 我が剣となり、絶大なる力を示せ!!」

一言一言に焼き尽くされそうな感覚を覚えながらも、私は身動き一つ出来ずにその場に立ちすくむ。
やがて地面の中から、赤い犬が大地を切り裂き現れた!
「この子は火の精霊、ケルビーよ 貴方は見たことがないかもね」
母はケルビーと呼ばれた召還獣の頭を優しく撫でながら言う
私は黙って頷く。

「そして、火 水 風 と来たら?」
「土・・・・・・?」
怖々答える。
その返答に母は満足したらしく、やがて歌うような声で詠唱を始めた。

「永遠なる地上の祝福に彩られし者よ 我が盾となり、慈愛の兆しを与えよ・・・・・・」

すると回りに暖かな風が吹く。
母は両手を前に出し、ゆっくりと言う。
「おいで・・・・・・ ヘッジャー」
どこからともなく、母の肩に一匹のモグラが気持ちよさそうに乗っかっていた。
ケルビーは母の足下で座り込み、始めて見るであろう私の召還獣を見つめている。
一方母の肩に乗っているヘッジャーは、外界に無関心なのか、すやすやと寝息を立てている。

「さぁて、始めましょうか」
母は軽く伸びをし、地面に座り込みなにやら魔法陣らしきものを書き始めた。
私は、母の背から魔法陣を覗き込む。
複雑な図形と、見たこともない文字をすらすら地面に書いていく。
私は母が地面に魔法陣を書いている間暇なので、母の肩に乗っているヘッジャーを触ってみた。

「ぷにぷに」
『ぴぎゅぅ・・・・・・』
かあいい・・・・・・(*´ω`*)
「ぷにぷに」
『ぴぎゅっ・・・・・・』
持って帰りたい・・・・・・(*´ω`*)
そこで母がぼそりと一言
「持ってったらだめよ~」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ばれてました(ノ∀<)

ー10分経過
「うっし出来た!」
「お、終わった?」
「うむw まぁ見てみれ♪」
ケルビーを撫でていたのだが、出来たあればしょうがない。
私は言われるままに魔法陣を覗き込んでみた。
ああ、ケルビーと待っている間フリスビーを投げて遊んでいたのは、言うまでもないb
ちゃんと取ってくるんだ・・・・・・(*´ω`*)

「じゃー説明するよん」
母は私に向き直り、真剣な顔で語り始めた。
「この魔法陣は、かつて数々の名召還術師達を生み出してきた至高の魔法陣なのよ。
だけどこれを使うのには己の精神がこの魔法陣に耐えきれないと肉体が死滅するの。」

「はぁ・・・・・・」
私は母の言っていることが解らず、気のない返事をした。

「この術式の正式名称は、フログリアム・デニアヴァール・レヴォ。
アイ達の言葉では『時の狭間に生まれし記憶』になるわね」

私は汗を垂らし口をぱくぱくさせて言う。
「全然意味ガワカリマセンオ母様」
母は私の言うことを無視して話を進める。

「この術式には、使った者の過去の記憶が残されてるの。
もちろん使う者にも新たに記憶が魔法陣に残される。
だけどね、この魔法陣の記憶は特殊なのよ」

私は母に発言するのをあきらめヘッジャーを手の中で転がして遊ぶ。

「魔法陣を使う際に頭に加えられる魔術があるの。
この魔術は記憶を回想させ使う者に感触や感情、全ての感覚をリアルに再現させることが出来るのよ。 ここでは記憶の魔術として知られているわ」

「コロコロ」
『きゅ~ きゅ~』
(*´ω`*)
「コロコロコロコロ」
『きゅうう・・・・・・』
(*´ω`*)カアイイ・・・・・・

「記憶の所持者のことはここではヴァリスと呼ばれているわ。
再現された記憶の中で、その記憶の所持者が傷つけば当然痛みも自分に来る。
そしてヴァリスの感情が高ぶればそれを見ている者の感情も高ぶる 
まぁ言ってみれば、精神的なヴァリスとの融合かな? ここまでで質問は?」

母は私の方を振り向き、
「コロコロコ・・・・・・」
びくっと肩をすくめ、動けないワタクシ
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙が辺りを支配する・・・・・・
邪ではない、もっとも原始的な 母に怒られる怖さ の静寂。

「あいちゃぁぁぁん?」
「ナッ、ナンデショウカオカアサマ!!」
笑顔でふらふら迫ってくる母に恐怖心を覚え、私はズザザッっと後ずさる。
「なぁぁにしぃぃてぇぇるぅぅのぉかぁなぁぁぁぁ!!!!?」
「ひ・・・・・・・・・・・・!!!」

迫る笑顔、必死に逃げるワタクシ
それから数秒後
その世界には
今まで聴いたこともない絶叫が聞こえたという・・・・・・・・・・・・
「ホギャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」



~アリアン宿屋~


「んあ・・・・・・」
ここは何処だろう
ついさっきまでカビくさい図書室のような場所にいたのに、今は暖かい良い臭いがする。
指先から感覚が戻ってくる。
ふと目を開けると、僕はベットの中だった。
(戻ってきたんだ・・・・・・)
まだ頭がぼやけている。
とりあえず起きようと思い、反対側へ寝返りを打つ。

すると
そこには
筋肉質の男がすやすや寝息を立てて寝ていたのだ!!
「ウギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「なっ、なんだ! 敵襲か!!?」
横で寝ていた筋肉質の男が突然起きあがり、ベットの端にあった剣をすらりと抜き構える。
「敵襲かじゃないですよハースさん! 何で僕のベットで寝てるんですか!!」
僕は突然の出来事に驚き、まくし立てる

「お~ 元気じゃないかフロ 突然倒れるから吃驚したぜ?」
それに対してハースはやんわりとした口調で答えた。
「も~! 今はそんなこと話している場合じゃ・・・な・・・・・・い・・・・・・?」
(腰に何かがある・・・・・・)
僕はローブのポケット部分を探り、その物体を取り出した。
それは、僕がさっきまでいた空間で手に入れた藍色のカートリッジと二本の短剣だった。

「ん・・・? フロワード その短剣見せてくれないか?」
ハースはフロの取り出した短剣を見つめながら言う。
僕は二本の短剣をハースに渡し、自分は藍色のカートリッジを見つめる。
見れば見るほど綺麗な色だった。
先端には水晶のような物が埋め込まれ、淡く碧色に光り輝いている。

「これは・・・・・・!」

短剣を食い入るように見ていたハースが突然声を上げる。
「何か解ったんですか?」

フロはハースの背から短剣を見つめる。
一つは刀身がクネクネと湾曲しており、長さは約25センチ。
つかの部分には赤い布きれが巻かれている。

もう一つは手のひらに収まるくらいの短さの剣だった。
刃先は鋭く、持つ部分には何かの皮が巻いてあり、簡単に握れて的確に相手を仕留めるのに適しているようだった。

「こっちの剣はブラッドウィスカー。かつての旧王国部隊にのみ配られたとされる伝説の剣だ・・・・・・ そしてこっちはワイドハンド!? アサシンにのみ使われていて外界に出ることがなかった暗躍用の短剣だ・・・・・・」
ハースはわなわなと肩を震えさせ、僕は問いかける。

「その剣のことを・・・・・・ 知っているんですか?」
「知ってるも何も・・・・・・ 剣士達の間では有名な剣なんだ。 これを手に入れるために何人の冒険者達が命を落としていったことか・・・・・・」

やはり・・・・・・・・・・・・
僕はそう思った。
さっきまでいた空間で、短剣の中から流れてきた記憶。
その中には暗殺者や冒険者の思いや感情などが自分の頭の中に伝わってきたのだ。

「この剣はどうしたんだ・・・・・・? お前が倒れる前には持ってなかったはずだが・・・・・・」
ハースは剣を見つめながら僕を見る。
僕はさっき体験した出来事を隠すことなくハースに話した。
聞いている間、ハースは時折口を挟もうとしたが言葉にする寸前で口をふさぐ。
全てを話し終えた後、ハースがアイも倒れたと言った。
部屋にある二つ目のベットには、茶色のローブを纏い仰向けに横たわる少女の姿があった。

「アイさん・・・・・・ 大丈夫でしょうか・・・・・・」
僕は不安になりハースに聞く。
「ん・・・ あいつなら大丈夫だ 倒れた直後は熱があったが今ではすっかり元通りさ・・・」
ハースは剣から目をそらさずに言う。
僕は部屋の窓際へと進む。
ふと外を見ると、マントを羽織った二人の人間が夜の街を歩いていくのが見えた。
・・・・・・こんな夜に何をやっているんだろう
僕はそう思い、身を乗り出して二人を見た。
二人の人影は僕に気づかないまま、アリアンの住宅街へと消えていった。

アリアンの夜は長く続く。
そして南の方角から強い風が来ている日は特に長い。
僕は人差し指を口に含み、風の方向を確かめる。
かすかだが風が吹いている それも南風だ。
「今日は長い夜になりそうですね・・・・・・」
僕はぽつりと呟く。
「南風の祝福、か・・・・・・ 当分の間は外出は控えた方が良さそうだな」
ハースは言う。
まだ剣を見つめているらしい。
僕は夜空を眺めながら、時が過ぎるのを待っていた・・・・・・・・・・・・



~アイテール・アナザー・フィールド~


「いふぁいいふぁいいふぁいいふぁいいふぁい!!」
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!!!」

逃げるワタクシ
追う母
かれこれ30分は続く壮絶な戦い(?)の末、私は母に捕まり頭をぐりぐりされている。
拳を作るのならまだしも、中指をとがらせドリル状にしてぐりぐり。
とっくのとうに声は枯れ果て、なおも私の頭をぐりぐり。

こんな卑情な母親だとは・゚・(ノД`;)・゚・

ー5分後

頭からかすかに煙がでている私を尻目に母は魔法陣の機動を始めている。
私は地面に横たわり、しくしく泣きながら頭をなでなで
「さぁ 出来たよ」
母は私の腕をつかみ、ぐぃっと引き寄せる。
私は無理矢理立たされ、魔法陣の前に立った。

「説明するわ この魔法陣に記憶されている、通称ヴァリスの扱い方を」
いつになく真剣な顔で母は言う。
「このヴァリスといふ物 赤き空の日から現れ、大地に降り立つ」
突然母は歌うように目の前にいるアイに語り出す。
「魔法陣はこの赤き空の日の恩恵なり そして地上の記憶を集めバルムンティアの秘宝となる」
そこで言葉を止め母はこちらを向く。
続きは貴方が話すのよ そう、目で言っていた。
アイは戸惑いながらも、頭に浮かんだ文字列を並べ替えこう続ける。
「・・・・・・バルムンティアを龍族の長として、ヴァリスを集め新たな種を作る」
「これすなわち・・・・・・」
母が助け船を出し
「アルカディアの聖域の源なり」
アイが最後の言葉を閉めた。
「そして聖域にはヴァリスが眠っている 魔法陣の記憶はそのヴァリスなり」

「ちょっとまって」
アイは口を挟み、母はきょとんとした顔でアイを見る。
「この空間は別の世界からの接触を受け付けないのなら、魔法陣が出たところでヴァリスと融合できないんじゃないの?」
母は あ~ と言う顔でアイを見る。

「この魔法陣は特別なのよ」
アイは母の言っている意味が理解できず、首をかしげる。
「この魔法陣は元々、赤き空の日以前の産物なのよ つまりは生きた化石ー もとい技術ね 旧王国時代の文明から出てきた物 今は知られざる過去を持ち、旧王国内部の破壊活動やら何やら色々な記憶が混ざってるのよ」
母は人差し指を上げて説明する。

「具体的にどうすればいいの?」
頭をぽりぽりとかき、準備運動をしながら母の答えを待つ。
「ん~ ヴァリスの記憶と融合して、実際に体験するのが良いかも」
アイはまだよくわからない様子だった。
「あのさー」
「ん?」
愛らしい娘の質問を親切に聞く。
「この修行・・・? っていうのは私の召還獣の召還持続時間を伸ばすための物でしょ?
実際出来るのは魔法陣から出てきたヴァリスとの融合。これで召還時間が伸ばせるとは思えないんですけど・・・・・・」
「ええ、まだ貴方には早い」
ニコリともせずに母は厳しい顔つきで言う。
「ただ、これだけは見て欲しい 召還獣の気持ちを・・・・・・」
私は、母の言っていることが解らず、また首をかしげる。
「この魔法陣の中に立ってみなさい」
私は言われるまま魔法陣の中心に立つ。
すると、目の前が真っ暗になった。

気が付くと、海の中だった。
比喩ではない。 本当に海の中にいるのだ。
私はおぼれかけていた。
必死に手足を動かし、もがき苦しむ。
ふと上を見ると、大きな男達が2~3人
笑いながら私を見ていた。
悔しい・・・!
何故かそう思った。
初対面であるはずの人物に対し、こんな感情を抱くのは初めてだし
まず、なぜ私が溺れなければいけないのかも解らなかった。
そこに一人の少女が現れた。

「やめてぇー! ケルビーをいじめないでぇー!」
少女は半泣きになりながら、一人の男の腕にしがみつく。

「うぜぇんだよ! この悪魔!!」
男は捕まれた腕を振り払い、少女を拳で殴った。

「あうっ!」
少女は地面に転がり、なおも立ち上がろうとしている

「お前さえ・・・ お前さえいなきゃ村は平和なままだったんだ!!」
男は少女を蹴り、手に持っていた棍棒で殴りかかる。
そこにいた男達も口々に そうだそうだ! 死んでしまえ! などと言いながら無防備な少女を傷め続ける。
腹を蹴り、頭を足で踏みつけ、棍棒で執拗に身体を殴りつける。
少女の身体からは時折嫌な音がし、それを聞くたび男達は歓喜の声を上げる。

やめろ・・・・・・

「村長、こいつの首をとっちまえば少しは静かになるんじゃいっすかぁ?」
半笑いで最初に少女を殴った男が、初老の筋肉質な男に話しかける。

「おお! それは名案だぁ こいつはそこの赤い獣と一緒に海に沈めるかぁ!」

おお! そいつは良いな!!と男達は口々にまくし立てる。

やめろ・・・・・・!

「おいお前、そっち持てや」
男が村長と呼んだ男に話しかける。

「そんちょ~ 俺にもやらせてくださいよぉ~」
「おら! さっさと立て!!」
少女の髪をつかみ、無理矢理立たせる。
少女はぐったりしながら、なおもぼそぼそと何かを呟いている。

「ん? なんだぁ?」

「け・・・」

「そんちょ~ 早く殺っちまいましょうぜぇ!」
「待て、この悪魔がなんか言ってるんだよ・・・」

「けるびーを・・・・・・」

「まだ言うか! 糞がぁ!」
少女の片手を持ち上げながら、膝で腹を蹴りつける。
「かはっ・・・・・・」
地面にだらだらと赤い液体が落ちる。
少女は口から血を吐きながらも、賢明に訴えかける。

「私の・・・ ケホ・・・ 友達を・・・・・いじめ、ないでぇ・・・・・・」

かすれた声うわごとのように呟く少女に、男達はなおも暴力の限りを尽くす。


私は、もう、我慢が出来なかった


『やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』


突然身体に力が入り、私は地上へと跳躍した。
男達は訳がわからず、少女を手に持ったままあわてる。
私はまず、村長と呼ばれた男の腕に噛みついた。
「うわぁ! はっはなせ!! はなせぇぇ!!!」
そのまま骨まで食いちぎる。
男はそのまま発狂したように踊り狂った。
間髪入れず首元に噛みつき、首の骨を破壊する。
ゴキャ! っと嫌な音がした。

「ば・・・・・・ 化け物・・・・・・!」
二人の男は、たった今殺した村長とやらの死体を見て、腰を抜かしている。
私が殺した男の首からはびゅくびゅくと血が噴き出し、ぴくぴくと痙攣していた。
『化け物? 私が化け物だと!? 無抵抗の少女に暴力の限りを加えたお前達の方が化け物、いや悪魔だろう!!?』
私はそう言うと二人の男に突進した。
棍棒を持っている男の肉をちぎり、眼球をえぐり、なおも痙攣している死体に噛みつく。
やがてぴくりとも動かなくなった死体を離し、少女を引きずりながら逃げる男を見据える。

『逃がさぬ!』
私は疾走した。
風になったかと思った。
否、私の身体は今、風そのものだった。
「ひ! ひいいぃぃぃぃいいいぃいぃいいいい!!!!」
後ろを振り返った男が、悲鳴を上げながら逃げていく。
どんどん私と男の距離が狭まっていく。
そして私は、男の足に噛みつく。
「ひぎゃぁ!」
そのまま足に噛みついたまま、尻尾で男の目を潰す。
グチャリとした感覚が尻尾から全身に走る。
『おぞましい悪魔め・・・ 我が主人を傷つける者は、生かしてはおけぬ!!』
そのまま、足を食いちぎり、なおも逃げようとする男の腹に噛みつき、臓物をさらけ出させる。 男はやがてピクリとも動かなくなり、少女の声だけが聞こえてきた。

「お・・・いで・・・ わたしの・・・ けるびぃ・・・・・・」
『ご主人・・・・・・!』
私は地面に倒れている少女の側に駆けつける。

「強くなった・・・・・・ねぇ・・・ 私を助けてくれ・・・・たんだねぇ・・・・・・」
『それ以上喋るな! 頼む!』
「私・・・ ねぇ・・・ けるびぃ・・・のことぉ・・・・・・ 大好き・・・だよぉ・・・・・」
『やめろと言っている! さぁ!早く私の背中に乗れ!』
「ずっと・・・ いいたかっ・・・ ケホっ・・・ たんだぁ・・・・」
『くそぅ!!』
私は無理矢理少女を背中に乗せ、疾走する。
死期は近い、手遅れになる前に早く治療をしなければ・・・ だが、どうする・・・!?
「早いなぁ・・・ かけっ・・・ こだったらぁ・・・ けるびぃがいちばん・・・だねぇ・・・・・・」
『それ以上喋ってくれるな!私はご主人に死なれたら、この世に召喚された意味がない!』
「ふふふ・・・ 私の・・・けるびぃ・・・」
少女はスリスリと私の背中に顔をすりつける。
だが、今はその感触を愛おしいと感じる余裕さえなかった。
「なんか・・・ 眠くなって来ちゃったよ・・・」
『ダメだ! まだお前には生きてもらわなければ!!』

私は走りながら、涙を流していた。
目の前にいたはずのご主人を助けることも出来ず、自分は海の中で見ているしかなかった。
『お前は・・・! お前は私の大切な主人だ!! おめおめと死なれてなるものか!!』
悔しかった。 ただただ悔しかった。
何も出来ない自分がふがいなくて、傷ついた主人を直す術も身につけていない自分が。
『ちくしょう! ちくしょう!! ご主人! 死なないでくれぇぇぇ!!!!!』
「けるびぃ・・・ 私のために・・・ 泣いて・・・くれてるんだね・・・」
走った。 今の私には走ることしかできなかった。
時間の浪費だ・・・ こんな事ならいっそご主人が息を引き取るまで側でじっとしていれば良かった・・・
いや! 何を考えているのだ私は! 早くご主人を助けなければ・・・・・・!

「もう・・・いいんだよぉ・・・? けるびぃはぁ・・・私のために、頑張ってくれ・・・たもん・・・」
涙が、止まらなかった。
「けるびぃはぁ・・・ わたしのぉ・・・ たいせ・・・つな・・・ともだ・・・」
『ご主人!? ご主人!!!!』
「おやすみぃ・・・・・・ けるびぃ・・・・・・」

少女は、私の背の中で、動かなくなった。

『う・・・・・・』
私は天に向かって吠えた。
『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!』

止めどなく流れ出る涙が、私の頬を伝い、地面に落ちる。
『神よ!! 貴方は何故私にこのような苦しみを与える!!! 私はご主人に死なれたら存在自体が無意味になるのだぞっ!!! 何故貴方は苦しみを! ご主人の苦しみを解らない!! 返せ・・・ 私の主人を! いますぐかえせえぇぇええ!!!!!!!!!!』

とたん、目の前が真っ暗になった。


© Rakuten Group, Inc.